「学校に行かない」息子の姿から見えてきたもの
トライアンフは、不登校の子どもたちのためのフリースクールです。この居場所を立ち上げた原点には、私自身の子育て経験があります。息子は小学4年生のときに不登校になり、その後いったん学校へ通えるようになったものの、中学生になって再び行けなくなりました。当時の私は「せっかく受験して入った学校なのに、なぜ行かないの?」と焦る気持ちが強く、朝から親子げんかすることもありました。でも本人がどれだけしんどい思いをしているのかが徐々にわかり、最後は折れました。息子はいわゆる〝普通〞とは違う歩み方をしましたが、現在は海外の大学に通っています。不登校だから学ばないわけではないし、みんなと同じタイミングで進まなくてもいい。最終的に本人が納得できる人生になれば、それがいいのだと思うようになりました。
同じ頃、発達凹凸をもつ子どもの保護者と勉強会や茶話会を開き、市民活動団体「異才ネットワーク」を設立。2019年には「ちょっと気になる子どもをもつ親の会」をスタートし、そこで「学校へ行かない子どもたちが日中安心して過ごせる居場所があったらいいね」と話すようになったことが、フリースクールの開校につながりました。
一人ひとりの持つ可能性を最大限に引き出したい
目指したのは、ありのままの自分でいられる安心安全な居場所。苦手なことやできないことを直すのではなく、一人ひとりの「好き」や「得意」にスポットを当て、まずはエネルギーをチャージしてもらいたいと考えています。だからトライアンフには、決まった時間割がほとんどありません。思いっきり体を動かしたい子、静かに本を読みたい子、生き物や植物に興味がある子、火起こしが好きな子、仲間とゲームを楽しみたい子…それぞれがやりたいことを大切にしています。
また私は子どもたちと接する際、あまり踏み込みすぎないよう心がけています。良かれと思って「これをやってみたら?」と勧めても、その子の気持ちとズレがあれば「自分のことをわかってもらえていない」と感じさせてしまうことがあるからです。自分で決め、その選択を認めてもらう経験が、自己肯定感につながっていく。これは発達凹凸をもつ子どもだけでなく、誰にとってもそうですよね。
現在、トライアンフには小学生から高校生まで約20人が在籍。週4日開校し、一人ひとりに合わせた学習支援のほか、外部講師との学び、アート活動、カフェ運営やマルシェ出店といった外とつながる機会も設けています。また、仕事や人間関係にしんどさを抱える「大人の発達凹凸の会イロイロ」も定期的に開催。今後はさらに高校生の支援に力を入れたいと、通信制高校サポート校も立ち上げました。
多様性を認め合い、みんなに居場所がある街



▲「好き」や「得意」を尊重し、それぞれのやりたいことを大切に
しています。
今、社会は少しずつ「多様性を認め合う」方向へ動いています。綾羽さんでも、多様な人材が活躍できる職場づくりを進めてらっしゃいます。実は私自身、教育や福祉の出身ではなく、以前は大手保険会社で企画や営業の仕事をしていました。組織で働く現実を知っているからこそ、多様性を尊重するといっても「一人ひとりに合わせればいい」という単純な話ではないこともわかっています。だからこそ私は、本人の特性と会社の事情の両方を理解し、互いをつなぐコーディネート役がとても重要だと感じています。
トライアンフの子どもたちにも、将来については現実的な話をします。学校に行きづらい子のなかには、一般的な進学・就職のルートに乗るのが難しい子もいます。その代わり、プログラミングやものづくりなど、自分の好きなこと・得意なことからスキルを伸ばし、仕事につなげる道を一緒に模索していきます。ただ、どんな仕事でも人と全く関わらずに生きていくことはできません。そのためトライアンフはオンラインではなく、あえて人と顔を合わせるリアルな場を大切にしているのです。
子どもも大人も、得意なことと苦手なことは一人ひとり違います。その違いを認め合い、本人の力を活かせる場所や役割を一緒に考えていく。多様な人がそれぞれの個性を発揮し、綾羽さんの長期ビジョンにある「みんなに居場所がある街」をつくっていけたらいいですね。
(庄司節乃・上村優奈/取材)



▲子どもたちの作品があちらこちらに飾られています。
(2026年8月取材)