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仰木自然文化庭園構想 八王寺組 会長 上坂 雅彦さんを訪ねてNEW

仰木自然文化庭園構想 八王寺組 会長 上坂 雅彦さんを訪ねて
大津市仰木で棚田保全や地域活性化の活動をされている上坂雅彦さん。名刺の肩書きには「八王寺組」の会長をはじめ、大津市農業委員、大津市地すべり対策協議会の会長など、さまざまな組織の役職が並びます。本業は保険代理店の営業さんですが、こうした地域活動に注力されている原動力は何なのか、後世への想いも含めて伺ってきました。

仰木自然文化庭園構想 八王寺組

Address:大津市仰木二丁目23-10
HP       :http://kamiogi.jp/
Mail     :kousaka@kamiogi.jp

荒れた田を再生するため立ち上がった公園化計画

 まず「八王寺組」について紹介しますと、大津市仰木で「地域の農業後継者対策・農地保全・地域活性化」などの活動に取り組んでいる組織です。呼び方は「はちおうじぐみ」ではなく、「はっちょじぐみ」。仰木の人達は昔から八王寺という集落のことを、「はっちょじ」と呼んでいるんです。
 この地域には上仰木農業組合という、JAとは違った農家の自治会のような組織があります。所属している農家は180数件と、大津市で最も大きい組織です。しかしこれだけ大きな農業組合のなかでも耕作放棄地が増え、担い手が少なくなってきたのが2000年以降。当時の60代の組合長OBたちは「あと10年もしたら農業をする人がいなくなるぞ。早く後継者を育てなあかん」という危機感を持っていました。そして当時30〜40代だった私たち若手世代は百姓嫌いで、農業はしたくない。でも荒れ果ててくる田んぼや畑を見て「これは何とかしなくては」という焦りもあり、「田んぼを公園や遊び場にできないだろうか」また「長年続いてきた棚田の文化や農耕技術を次世代へ残せないだろうか」と考えました。それが「仰木自然文化庭園構想」の始まりです。
 もともと上仰木の田んぼは比叡山延暦寺の僧侶や僧兵の食糧を確保するための荘園として平安時代前期にできたといわれ、1200年以上の歴史があります。そんな田んぼの文化を継承しながら、集落を巡るハイキングコースの整備などみんなで遊べる憩いの場をつくろうという目的で2007年2月に「八王寺組」が発足しました。

地元住民が主体となって 田んぼを地域活性化の場へ

▲棚田の向こうに見える琵琶湖
 発足当時、初代会長が大切にしたのは「地域に認めてもらうこと」。そこで1〜2年目は耕作放棄地の草刈りや農道の整備を行いました。また同時期に県の施策で「しが棚田ボランティア制度」ができ、2009年1月に第1回目のボランティアを受け入れました。当初私たちは「草刈りが一番しんどいのに都市から人が来るわけない」と思っていたので、13名ものボランティアの方が集まり、たった1日で雑草だらけだった場所がきれいになった時は本当に驚きましたね。もちろん地域内には都市から人が入ってくるのに否定的な人もいました。でも私たちが都市住民の方と一緒に棚田の保全活動をして改善された成果を見て認知され出し、継続して保全し続けた結果少しずつ認めてもらえるようになりました。今では「棚田ボランティア登録制度・たな友」のネットワークを通じて、大津市だけでなく京都、奈良、東京からもボランティアさんが来てくださいます。
 その後も「八王寺組」では地域の盆踊りのお手伝い、映画の撮影協力、生き物観察会や棚田巡りスタンプラリーの開催など、いろんな活動を行っています。2012年から2015年にかけては、地元の成安造形大学と連携し「八王寺組」の拠点となるストローベイルハウス(藁の家)を作りました。本当はストローベイルハウスを学生たちのギャラリーにし、カフェを隣接してバリ島のライステラスのような憩いの空間をつくりたかったのですが、現行の農地法ではできず断念しました。今は、私が現役で農業委員をしている間に農林水産省と交渉し、国土の有効活用ができるように農地法の改革に着手してもらいたいと考えているところです。

一人ひとりの感性をくすぐる棚田は〝自然がもたらす公園〞

 私が「八王寺組」の会長になったのは2011年4月から。自分の感じている地域の課題にできるだけ向き合うため、他にもさまざまな地域の役割を引き受けています。実は高校時代に荒れていた時期があり、両親や先生にも大変迷惑をかけてしまいました。一歩間違えば道を踏み外してしまう可能性もあったかもしれませんが、こんなヤンチャな自分を見捨てず温かく見守ってくれたのが地域の人々だったのです。だから今は「育ててもらった地域に恩返ししたい」という思いでやっています。
 棚田の魅力は、ひと言で語れるものではありません。人それぞれ、自分の持っている感性をくすぐられる場だと思っています。「棚田オーナー制度」で田植えや稲刈りを体験されたご家族が生き生きとされていたり、成安造形大学の美術系の学生が棚田のフィールドワークで五感を刺激され、制作意欲をさらに高めたり。不登校だった子が稲刈りに来てから学校へ行けるようになったという話もあります。
 私は兼業農家で3ヘクタールの棚田を耕作管理していますが、到底一人では管理できません。「八王寺組」のメンバーに手伝ってもらったり、応援に行ったりして助け合ってできる。人の力というのは二人いると単に2倍ではなく、たわいもないことを話したり、アドバイスし合ったりすることで3倍にも4倍にもなっていくんです。だから皆さんも一人で難しい仕事があれば、周りの方と協力してみてください。そしてもし一人で孤立して悩んでいる人がいたら、ぜひ仰木の棚田に来てください。きっと何かを感じ取ってもらえるはずです。

         


 
(2024年9月取材)

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