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江北図書館 館長 久保寺 容子さんを訪ねて

江北図書館 館長 久保寺 容子さんを訪ねて
120年もの間、湖北の地で愛されてきた江北図書館。JR木ノ本駅前、昭和の面影を残す1937年築の建物にあって、その蔵書も時代を遡るものが多数そろいます。現館長の久保寺容子さんも、他館にはない個性をもつ同館に魅せられた一人。本や地域への思い、図書館を次代に引き継ぐための奮闘について伺いました。

公益財団法人 江北図書館

住所:〒529-0425 滋賀県長浜市木之本町木之本1362
TEL:0749-82-4867
 

味のある本と空間、読書好きの地域の人々に強い感銘を受けて

本
▲明治の創設当初から現在までの所蔵図書を記した「図書原簿」
 当館は滋賀県最古の私設図書館です。明治の終わり、1902年に弁護士・杉野文彌が故郷に開いた杉野文庫が前身で、5年後に財団法人江北図書館となりました。以来何度か移転していて、今の建物に入ったのは約50年前です。「ここが大好き」と遠方から訪ねてくださる方、「新しい図書館にはない時間が過ごせる」と喜んでくださる方もいます。どこか懐かしく心地よい空間が、古い本や明治時代の書架とマッチしているからでしょうか。

 私自身、江北図書館と出会ったのは20年ほど前です。当時携わっていたタウン誌の取材で訪れ、他の図書館とは違う空気感、落ち着く感じが好きになり、いつかここで働きたいと思いました。

 2014年、念願かなって司書兼学芸員として勤めることができました。カウンターに座っていると、おばあちゃんたちがたくさん来館され、思い出話をお聞きする機会も得ました。木之本町は北国街道沿いの宿場町で、商家の女性は家を空けられなかった。でもこの図書館があったから、本の中で旅ができた、本に助けられたなどと教えてくださいました。

 書架に並ぶ、色褪せてボロボロになった児童書、普通は棚から抜いてしまうような古い本が、長い間地域の人たちの営みと寄り添い、苦しい時代も一緒に乗り越えてきたのだな。そう思うと、本も図書館もさらに愛おしくなりました。

異職種から図書館司書へ 本を広める活動を経て 館の難題と向き合う立場に

アーチ
▲アーチ窓の佇まいに歴史を感じる
 私は子どもの頃から本が好きで、小学校では朝昼夕と日に三度、図書室に通うほどでした。本好きになったのは祖父の影響だと思ます。祖父はどこへ旅行にいこうが、お土産はいつも本。旅先の本屋さんに立ち寄って買ってきてくれました。

 短大卒業後は職を転々とし、長浜の黒壁スクエアで商品ディスプレイを担っていたこともあります。その仕事を辞めた後、図書館で働きたいと思い立ちました。大学に行き直して司書資格を取り、公立図書館の臨時職員になると、毎日楽しく勤められました。しばらくして博物館に移ると今度は学芸員の面白さにも惹かれ、通信制大学で資格を取得。江北図書館に勤めたのはその後です。

 同館では司書と学芸員、ふたつの力を活かせると感じました。ベストセラーや雑誌が少ない代わり、杉野文彌が集めた江戸時代の和本、法律の本、また伊香郡の郡役所文書(行政文書)などがまとまって残っていて、貴重な資料に触れられました。1年で契約満了となり離職しましたが、私にとって江北図書館はずっと気になる存在で、木之本町を離れがたく、本に親しむ機会をつくる活動を仲間たちと始め、2016年には古書店「あいたくて書房」を開きました。

 そして2021年6月、江北図書館の存続を望む同志たちと同館の理事会に入り、同年10月には館長に。実は江北図書館は運営資金が乏しく、建物は老朽化し、利用者も減っていくなど、多くの課題を抱えていたのです。何とか守りたいと、理事長の岩根卓弘さんはじめ心強いメンバーと新しい図書館づくりを始めました。

図書館の枠にとらわれず 新しい挑戦を次々と 地域振興にも貢献したい

 江北図書館は公立ではないので、国や行政からの補助金を受けられません。でも私設図書館だからこそ自由に、さまざまな挑戦ができるメリットがあります。手始めにこの館の存在を知ってもらい、魅力を感じてもらうことから取り組もうと、理事会で知恵を絞り、地域の人々の協力も得て、古本市やコンサートなどのイベントを催しました。

 こうした取組みが評価され、昨年「第4回野間出版文化賞特別賞」をいただきました。受賞のニュースが広く報じられたのを機に、インターネットを通じて資金を集めるクラウドファンディングにも挑戦。当館を大事に思ってくださる人が日本全国にいて、目標額を達成できました。おかげで来春には閲覧室とお手洗い、ちょっとしたカフェを併設した別棟を建てられる予定です。いずれはまた策を練って現在の建物の修復も進めたいですね。

 当館はもともと地域の人たちが長い間守り抜いてきた図書館です。今後はいっそう本と人、人と地域をつなぎ、一体となって盛り上げていけたら。そうすることで次の世代もこの図書館を大切な存在として継いでくれるのではと考えています。

 アヤハの皆さんも湖北まで足を伸ばし、木之本の町をめぐってほしいです。まず地域全体を見てもらうと、どんな風土かよく分かると思うので。そしてこの地域で生きてきた江北図書館を、ぜひのぞきに来てほしいですね。
 
ノスタルジック
▲ノスタルジックな雰囲気を醸し出す二階へと続く廊下
カード目録
▲閲覧したい本をこのカードで検索していた「カード目録」
風景
▲窓から入る風が心地よくのんびり読書を楽しめます
(2023年8月取材)

CSR

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