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琵琶湖発 人間探訪

NPO法人滋賀県社会就労事業振興センター 城 貴志さんを訪ねて

NPO法人滋賀県社会就労事業振興センター 城 貴志さんを訪ねて
日本中央競馬会(JRA)の栗東トレーニング・センターで使われた調教馬のゼッケンを、滋賀県内の障がい者の手で「steed(スティード)」の遊び心あるオリジナルバッグに。この人気商品が生まれるきっかけを作ったのは、NPO法人滋賀県社会就労事業振興センター理事長・城貴志さん。その経緯や背景にある想いを伺いました。

びわこみみの里

住所:〒524-0102 滋賀県守山市水保町165-1
TEL:077-514-9078 FAX:077-585-7144

使用済ゼッケンを商品化 周りを巻き込み 新たな事業に取り組んで

▲縫製が好きで楽しみながら作っています。これからも続けていきたいですね
 滋賀県社会就労事業振興センターは、作業所(福祉事業所)に企業から依頼された仕事を斡旋、また作業所の商品を企業と改良して販路を開拓するなど、障がい者就労支援のハブ的機能を担っています。

 「steed」の事業も取り組みのひとつ。始まりは2006年、ある障がいのある人が栗東トレーニング・センターのメンテナンス会社に就職したのを機に、JRAとご縁ができたことです。栗東トレーニング・センターで使い終わった調教馬のゼッケンを廃棄していると聞き、JRA関係者の方と一緒に商品化できないかと考えました。当時のゼッケン生地が京都の老舗帆布かばん店のものだったので、バッグの製作を思いつきました。

 JRAに「商品化して作業所が関われば、障がい者の働く機会と収益につながる。捨てずに再利用すれば環境に優しく、CSR(企業の社会的責任)活動として企業価値の向上にも結びつく」と提案したところ、ゼッケンを提供してもらえることになりました。

 当初は本格的に縫製業をしている作業所が見当たらず、縫製は外注し、作業所はゼッケンの洗浄と商品の梱包だけを担当。数年後、ゼッケン生地がペットボトルのリサイクル生地に変わるとなって、今度こそ作業所で縫製・加工をと模索しました。設備が必要だと知人に訴えると、幸い伝え聞いた草津の縫製工場がミシンを譲ってくれました。技術のほうは、県内の作業所に商品の試作を募った結果、守山市の聴覚障がい者施設「びわこみみの里」にかつて聾学校で縫製を学び、長く工場で働いてきた人がいる、外部デザイナーの協力も得られるとわかり、作業所での製造を実現できました。

チャリティ感覚ではなく商品力で求められるブランドにしたい

 販売面も模索しました。最初は行商のように競馬場や場外馬券売場の売店にバッグを持ち込みましたが、なかなか売れません。デパートの催事に出店、インターネットでの販売も始めると、私たちの試行錯誤を競馬雑誌が記事にしてくださり、大きな反響に。売上もみるみる伸びました。

 2009年には「steed」としてブランド化も。私自身、スイスのバッグメーカー「FREIT-AG(フライターグ)」のかばんが好きで、その製作に障がい者が関わっていると後になって知り、「steed」も品質やデザインを高め、商品力で求められるブランドになればという想いを抱きました。

 背景には私の実体験があります。就職したばかりの頃、作業所の商品販売会で店頭に立っていると、障がい者が作ったものだから助けないと、というチャリティ感覚のお客さんが大多数でした。障がい者は守られる存在ではない、地域の中で普通に働ける存在だと広めていかなければと痛感したのです。

 それには福祉の枠を越えるプロジェクト、地域の企業や団体などと連携した新たな取り組みが必要だと考えるようになりました。地場産業の活性化や介護、農業といった地域のキーになる言葉と、障がいのある人たちをどう結びつけていくか。待っていてもだめなので、積極的にさまざまな場に飛び込み、商工会や同友会といった経済団体にも属して自ら汗をかき、つながりを作っていきました。

地域の課題は〝自分ごと〞誰もが働きやすく、暮らしやすい共生社会に

 現在「steed」は好調です。女性向けの小ぶりのバッグなど新作を出すとすぐ反応があり、売上があがって喜びの声も寄せられます。新商品が出るたび買いそろえてくれるファンもいます。ゼッケンの洗浄を担う「若竹作業所」含め、このブランドに携わる障がい者の人たちもやりがいを感じていると思います。守山市・栗東市のふるさと納税の返礼品にもなっているので、地域の活性化にも役立っているのではないでしょうか。今後は、茨城県のJRA美浦トレーニング・センターとも協働し、次の展開ができればと構想中です。

 滋賀県社会就労事業振興センターの今後としては、「steed」のように企業と福祉がコラボするような、新しい事業を組み入れながら障がい者に限らず働きづらさがある人、例えば生活保護の受給者や若年認知症を患っている人などの就労も支援していきたいと考えています。今まで働けないと諦めていた人たちだって、活躍するチャンスはたくさんあります。昨今は人手不足ですし、これから労働者人口も減っていきます。多様な人が働きやすい環境を作ることが、地域にとってもプラスになると思います。

 よい地域、よい共生社会を作るには、私を含め一人ひとりが地域の課題を自分ごとと捉える意識、習慣を持つことが大切です。自分の住んでいる地域の困りごとを考える、そんな人が増えれば、よりよい地域へと変わっていくはずです。
 

 
(2023年2月取材)

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