ソーシャルとビジネスの融合でいろいろな働く場を創る
▲観光客も訪れる人気スポットになったハス畑
今、私たちが向かっているのは、ソーシャルとビジネスの融合、ノウフク連携による地域の活性化です。子どもたち、高齢者、障がいを持った方など、さまざまな人がここに来れば自分の存在を喜べて、ホッとできるような場所。そんな居場所をつくるために、ソーシャルの面では介護保険事業(ケアプランつどい・デイサービスつどい・七条つどい)、障がい者総合支援事業(就労継続B型作業所つどい)、ひきこもりや生きづらさを抱えた人の作業マッチング事業(つどい100JOB)、きんたろう村農園事業などを展開しています。
一方、ビジネスの面では合同会社TUNAGUを立ち上げ、ハス栽培やハスの商品化を行う「あいのたにロータスプロジェクト」、菌床しいたけ栽培、せんべいやチョコレートの製造・販売などを手がけています。これだけいろんな事業があると、畑仕事には向かなかった人も、しいたけ栽培やバックヤードのパソコン作業ではイキイキとする、というような適材適所を叶えられるのがいいところ。障がいのある方やひきこもりの方が定期的にここで作業し、少しずつ会話が増えたり、笑顔になったりする変化を見ると、本当に泣きそうになるくらい嬉しいですね。
「多様性」や「共生」という言葉を心の底から実感できた出来事
▲ハスを商品化されたソース、ジャム、お茶
でも最初からこんなに幅広い事業を展開しようと思っていたわけではありません。私はもともと介護ヘルパーやケアマネジャーとして働いている時に、「高齢者が住み慣れた地域や自宅で最期まで暮らせる手助けがしたい」と思っていました。そこで2011年にNPO法人を立ち上げ、居宅介護支援事業を始めたのが第一歩です。
転機となったのは2012年の春。事務所裏の畑にサツマイモを植えることになり、利用者さんや知人に声をかけると、高齢者や障がい者、子どもたち、地元の高校生たちが一緒に畑に入って作業してくれました。その姿を見て、心が打ち震えるような感動を覚え、「私たちが行く道はこれだ!」と確信したんです。「多様性」や「共生」という言葉が、実感として心にストンと落ちた瞬間でしたね。
ハスを植えたのも偶然の出会いからでした。今から5年ほど前、香水会社の社長から「国産のハスで香水を作りたい」という相談を受けました。西黒田地区には耕作放棄地がたくさんあり、私もどうにしかしたいと考えていたタイミングだったので挑戦することにしたんです。長い間ほったらかしにされた大地は水をなかなか吸わず苦労しましたが、1〜2年かけて地道に耕すうちにようやく水が張るようになりました。今では3ヘクタールの広大なハス畑が完成し、7月の見頃には観光客も訪れる人気スポットになっています。そして2021年の夏にはハス畑の横に「カフェ・ロータス」もオープンし、ハスの花の天ぷら、ハスジャムのかき氷、ハスサイダーなどのメニューを提供。香水の代わりにハスのハンドスプレーも開発しました。
プレッシャーをはねのけながらやりたいことを100%実現
どの事業も大きな利益が出るものではありませんが、小さな事業を組み合わせることで何とか定着してきた感覚があります。それでも決算の時期が近づくと「赤字になったらどうしよう」と心配になりますよ。ここは地域のいろんな人たちが働く場であり、機能訓練の場であり、かけがえのない居場所。維持できなくなると困る人がたくさん出るだけに、重圧につぶされそうになることもあります。そんな時は「一人でやっているんじゃない、気負わずにいこう」と自分自身に言い聞かせるようにしています。
仕事をしている時間って睡眠時間より長いですから、どうせなら楽しく働きたいですね。私は生まれ育った地域に恩返しするような活動を行っていますが、自分としてはただ好きなことをしてきただけ。今は「400年前、門前町だった場所に、もう一度人を呼び戻して再生したい」と、自然体験ができるフィールドづくりも考えています。スタッフからは「ドッグランを作りたい」「お見合い大作戦がしたい」という声もあり、それもぜひ実現させたいです。私がやりたいことは100%やってきたので、今度はスタッフの夢を叶える番なんです。
アヤハで働く若い皆さんも、まず目の前の仕事を楽しんでみてください。やりたいことがなくても、希望の仕事と違っても、置かれた場所で何か楽しみを見出せたら、きっと見える風景が変わってくると思います。
▲適材適所で働かれています。
▲菌床しいたけ栽培で収穫された「きんたろうしいたけ」
(2022年4月取材)