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琵琶湖発 人間探訪

健康生活創生研究所 笹田 昌孝さんを訪ねて

健康生活創生研究所 笹田 昌孝さんを訪ねて
健康生活創生研究所所長であり、滋賀県顧問、綾羽顧問、京都大学名誉教授でもある笹田さん。医師として50年間活躍されてきた経験をもとに、「子どもはのびのび、若者ははつらつ、お年寄りはいきいき」とした滋賀県の健康づくりに貢献されています。長年の知見から到達された氏の“健康観”と理想の社会について聞いてきました。

健康生活創生研究所 in 滋賀
〒520-0801 滋賀県大津市におの浜2-1-48第3森田ビル8F
TEL:077-526-7186 E-mail:masasada1945@gmail.com

望ましい健康とは心身の健康を併せ持つこと

 私は大阪で生まれ、幼少期は野山を走り回る昆虫少年でした。この体験が後々私にとって大きな道しるべとなったように思います。また1970年に医学部を卒業し、内科医として京大病院で診療を担当させていただく間に大事なことを患者さんから教わりました。それは、これまで安易に使っていた「病気を治す」という言葉の本当の意味です。例えば、喉頭がんの患者さんのがん組織を外科手術できれいに取ったら救命できます。しかし、もし会話ができず日常生活に大きな不自由があれば、それで果たして病気が治ったと言えるのかと大きな疑問に突き当たりました。

 先輩や学友と話したり本を読んだりしましたが、すっきりしないままに時が過ぎ、病院で診療を続けながら京大医療短大で医療専門職の学生さんの教育と研究を担当することになりました。このおかげで他分野の先生方に出会い、議論を重ねてたどり着いた結論は、「病気が治るとは心身ともに健康的な生活を営む状態に復すること」。そして人の望ましい健康的な姿を創り出すには新しい研究分野が必要であると考え、医学のみならず薬学、看護学などの医療関連分野や医療情報学、さらに人文社会科学といった広い分野の方々と協働する研究分野、「人間健康科学」を京都大学に立ち上げることに。また工学部の方々と協力して「健康的に生活をする街、安寧の都市」を創る必要があるとの結論にも至りました。

 こんな思いを抱いて京大病院の定年を迎えた時、私が夢のように描いた目標を医療の面から進める提案を滋賀県からいただきました。このような幸運に恵まれて、滋賀県立成人病センター総長・病院長に就任し、県民の皆さんにからだとこころの健康を届けることを私の役割としました。まず目標達成の基盤として不可欠な全県型医療体制システムをみんなで考え「県内の医療機関を繋ぐITネットワーク」、それを活用した「遠隔病理診断ネットワーク」、「全県型医療関連職の人材育成」などをそれぞれの専門家によって立ち上げました。

毎日外へ出て足と五感を使い100年時代を健やかに

 こうした基盤整備が進むと、いよいよ「健康的に日々暮らす姿づくり」の具体化です。私は滋賀県病院事業庁での勤務を経て、現在は「健康生活創生研究所」において滋賀県や県内企業の顧問として望ましい健康づくりの具体化に必要な情報の収集と解析、人材育成、広報活動などを続けています。

 現在、滋賀県が直面する大きな課題は「少子超高齢社会」「こころの健康問題」「迫る自然大災害」、そして「Withコロナ、Afterコロナ」です。これらを見事にクリアするために最も大事なことはまず私たち一人ひとりが自立し、三世代が一体となって健康的な生活を送ること。健康的な心身を創るためには足をしっかり使うこと、五感(視覚・聴覚・味覚・臭覚・触覚)をフル活動させることです。こうして三世代が自然や文化と共に健康的な生活を送ることにより滋賀にふさわしい環境、社会を築いていきます。

産官学が連携しあい未来を担う子どもたちを育む

 私がこれから一番力を入れたいのは、子どもたちがのびのびとその子が持っている特性をフルに伸ばす様々な場所、機会をつくり、そのような場に導くことです。子どもたちにとって最もふさわしい場は自然界だと思っています。自然のすばらしさと自然の過酷さを知り、自然と共に生きることを五感を通してしっかりと学ぶでしょう。滋賀県は自然に恵まれたところであり、ぜひ私たち大人の大事な役割だと考えて導きたいと思います。

 さらに文化、芸術、スポーツなどを通じて他者と触れ合うことは、欠かすことのできない重要な体験として子どもたちに生きる力、学ぶ力を与えることでしょう。残念ながら、現状はまだ理想にはほど遠く、私たちが今後一層の努力によって子どもたちに貴重な機会をつくりたいと思います。

 そして将来を企画、立案する立場にある若い方々は、明るく楽しく仲間と対話しながら10年先、20年先を展望し、この滋賀県をふさわしい姿へと導いていただくことを期待しています。
(2021年5月取材)

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