80年代、関西の小劇場ブームに巻き込まれるようにプロの俳優へ
演劇に興味を持ったのは、近江八幡の実家で暮らしていた子どもの頃。文化祭の出し物で劇をやった時に面白いかも!と思ったんです。それに朗読も得意で、東京出身の母が読んでくれる絵本を聞きながら自然と標準語をマスターしていました。その後、大学進学を機に、辰巳琢郎さん率いる「劇団そとばこまち」に入団。当時はちょうど小劇団ブームだったこともあり、学内サークルから俳優のプロを目指そうという渦の中に私も巻き込まれていきました。
ディレクターと打ち合わせ それから現在まで、俳優として舞台やテレビでいろんな作品に出演してきました。ときには芝居の講師をしたり、アルバイトもしたりですが、傍目には俳優一筋でやってきたように映るかもしれませんね。でもとにかく目の前にある仕事を一生懸命やって、それが終わったら次というふうに繋がってきただけ。まだ大きな達成感や満足感を味わっていないから、次に出会う何かに期待してここまでやってきました。
大切にしているのは、鈍感にならないこと。常に自分を開いて何にでも心を動かしていたいと思っています。何事も見て、聞いて、やってみないとわからない。前向きに挑戦することは、俳優に限らずどんな仕事でも大切ではないでしょうか。
滋賀にまつわる仕事で地元の魅力を再発見
「湖国サウンドスナップ」本番中 そして昨年、担当させていただいたのがNHK連続テレビ小説「スカーレット」の滋賀ことば指導です。もともと連続テレビ小説に出演していたご縁で滋賀出身の私にお話があったのですが、最初はできるだろうかと躊躇しましたね。大切にされてきた歴史ある方言ですから、一言ひとことに責任を感じます。また自分がいた近江八幡と舞台になった信楽では違う部分もあるため、信楽に住んでいる方にリサーチするなど勉強もしました。いざ現場に飛び込んでやってみると、ほとんどの撮影に付きっきり。今まで俳優として出演していた時よりも全体の流れや一体感を味わうことができ、新しい経験を得ることができました。
さらに今年4月からはエフエム滋賀の新番組「湖国サウンドスナップ」のパーソナリティに。 これは滋賀県の魅力をリスナーからのメッセージと音楽で再発見する番組で、私自身改めて滋賀の良さを感じています。実は学生の頃は、京都や大阪と比べて田舎の滋賀県出身ということに少し引け目を感じていました。でも今はむしろ滋賀県出身が誇らしい。琵琶湖を中心に豊かな自然と歴史に抱かれた暮らしがあって、心動く素敵な場所がいっぱいある。それは仕事で京都や大阪へ出たからこそ、より深く感じるのかもしれません。
エンターテイメントの力を信じてこれからも続けていきたい
今年はコロナ禍もあり、演劇のようなエンターテイメントって本当に必要なのだろうかと考えることが増えました。もっと直接的に貢献できる仕事をした方がいいんじゃないのかって。それでも辞めないのは、やっぱりエンターテイメントの力を信じているからです。動画配信で観るのもいいですが、どうしても生で体感する感動にはかなわない。だからコロナが落ち着いたらまた劇場に足を運んで楽しんでもらえるように、今はいい機会だと思ってもう一度自分を鍛え直しているところです。またこれまでは俳優として台詞を発してきましたが、これからは〝西村頼子〞の言葉で発信する仕事も増やしていきたいですね。そういう意味ではとてもいいタイミングでエフエム滋賀のお仕事をいただけたと思っています。
皆さんも仕事をしていたら悩んだり、辞めたいと思ったりすることがあるでしょう。「もうあかん」と思ったら、気持ちを切り替えて新しいことにチャレンジするのも一つの手です。でも私のように同じ道をずっと極めていく人生も豊かです。小さい挫折や小さい成功体験を重ねながら続けてこられたことに後悔はありません。年齢を経たからこそ見える風景、わかることもありますから。自分に振られた仕事はとりあえずやってみる。楽しんでやろうとする。それが長続きの秘訣かもしれませんね。
※記事の内容は取材時点での情報となります。あらかじめご了承ください。
(2020年8月取材)