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琵琶湖発 人間探訪

子どもの理科離れをなくす会 北原 達正さんを訪ねて

子どもの理科離れをなくす会 北原 達正さんを訪ねて
北原 達正さん
滋賀を拠点に、全国で科学の学習を通じて人材育成に取り組む、「子どもの理科離れをなくす会」代表の北原 達正さん。同会の目的は、子どもたちが将来社会で活躍するための基礎づくり。北原さんの教育に対する想いや、親として、ビジネスパーソンとして、私たちが知っておくべきことを伺いました。



子どもの理科離れをなくす会

住所:滋賀県大津市大石東3-11-15
HP:https://e-kagaku.com

国際科学教育協会
SRC(SPACE ROBOT CONTEST)

HP:http://global-science.or.jp/src

コミュニケーション能力と論理的思考を育む

 「子どもの理科離れをなくす会」(以下:理科会)では、小中学生を対象にしたプログラミング教室やロボット教室などを運営しています。しかし、目的は理科の成績を上げることでも、プログラミングスキルを身につけることでもありません。グローバル社会に対応し、ビジネスや研究・開発の分野で活躍するための土台となる、論理的思考やコミュニケーション能力を育むことが真の目的です。科学の学習を通じて、文化や価値観の異なる人と精確に情報を伝え合う力、客観的にデータを取って論理的に分析し、人を説得できる力 を習得してほしいと考えています。

 理科会を立ち上げたのは2003年。コンピュータが普及しはじめる一方、子どもの理数科のレベルが低下し、人材育成の重要性が叫ばれていた時代です。当時、私は京都大学で宇宙物理学の非常勤講師をしており、文科省の取組みの一環として、小中学校への出前授業を受け持つ機会がありました。その時に学校で行われている理科の学習と、研究の現場で必要なこととのギャップに愕然としたんです。学校の学習は教材に沿って進められ、正解することがすべて。どのように課題を発見して、解決するのかというプロセスは見落とされていました。「このままではいけない」と思い、教室を開いたのがはじまりです。

 これは科学や研究を志す子どもに限ったことではなく、次代を担うすべての子どもにいえることです。そうした意味でも、理系・文系、都心部・地方にかかわらず学習できる場を提供したいと考えています。

本物にふれ、本気で取り組むことが大切


「楽しい」という理由で学ぶロボットやプログラミングは将来「科学」を意識するようになる。

 近年の教育は、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(ものづくり)・Art(芸術)・Mathematics(数学)を融合した、STEAM教育が積極的に取り入れられており、そのベースとなるのがコンピュータに関する知識と技術です。先ほど理科会の目的はプログラミングの習得ではないといいましたが、今やITスキルと英語力は不可欠。それをどのように活用するかが問われているといえるでしょう。

 私が重視しているのは、本物にふれ、本気で取り組むこと。理科会では子ども用にアレンジした課題ではなく、トップレベルの大学生でも解くことがむずかしい課題を出します。それは、アスリートを目指す小中学生に、おもちゃの道具で練習させないことと同じです。最初は戸惑う子どももいますが、すぐに自分で考えて課題解決します。不安がっているのは、むしろ大人ですね。

 もうひとつ力を入れているのが、人を説得する力の習得です。ビジネスをはじめ、すべての社会活動は、関連する人たちの協力がなければ実現しません。そのため私たちの学習では、単なる研究発表ではなく、研究成果をどのように活用したいのかをアピールするプレゼンを行います。もちろん原稿を読むプレゼンは認めません。日本人が最も苦手なことですが、苦手だからといってそのままにしておけば世界から取り残されるだけ。子どもの頃から経験を積むことで、相手を理解したうえで自分の考えを伝える力が身につくのです。

おもちゃではなく本物の教材を使って勉強しています。

優秀な人材が地元に戻り新しい力を育ててほしい

合宿に参加した子どもたち

 現在の人材育成でもうひとつ問題となっているのは、子どもたちの成長を支える社会環境がまだまだ整っていないことです。例えば、適切な評価・指導ができる指導者不足や、子どもたちが力を伸ばし、発揮する場をつくる企業がほとんどないことが挙げられます。こうした問題を改善するために、今は子どもを指導する大学生の育成や、企業・関連団体との連携強化に注力しています。今年の11月に滋賀で開催する、スペースロボットコンテスト(SRC)の全国大会もそのひとつ。SRCは子どもたちが自律型ロボットを用いてさまざまな課題に挑戦する大会で、教室での継続学習で培った知識と経験をどれだけ活用できるかが成果を挙げるポイントとなります。
また2019年10月2日〜7日には、理科会のロボット観測機第1号が宇宙に打ち上げられます。この取組みではトヨタやロッキードが使用しているソフト「MATLAB」を分析に用いることで、第一線で活躍する道を開きます。

 滋賀は人口が増えている数少ない地域で、新しいことにチャレンジする気概を持った企業がたくさんあるなど、大きく発展するポテンシャルを秘めています。しかし地域リソースを活かすためには、企業・行政・教育機関・地域住民の人たちとの連携が欠かせません。特に子どもの可能性を育む支援は、〝今〞アクションを起こすことが重要です。滋賀は結婚を機に移り住んで以来、愛着があるまちなので、できる限り地域の発展・活性化に貢献したいと考えています。

 私にとって教育のモチベーションは、子どもたちの「無理だと思っていたことができた」「勉強が楽しい」といった声。一人でも多くの子どもが学ぶ楽しさを知り、自分が持つ力を伸ばして社会で活躍してほしい。そして地元に戻って人材育成に携わり、次の新しい力を育むサイクルができれば嬉しいですね。

 

※記事の内容は取材時点での情報となります。あらかじめご了承ください。
(2019年4月取材)

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