古い歴史がある「つづれ織り」を受け継ぐ滋賀唯一の織元
爪掻本つづれ織りにはギザギザにカットした爪が必要 皆さんは「つづれ織り」という織物の技法をご存知でしょうか。これは横糸をたるませ、縦糸が見えないように打ち込みを多くした織り方で、横糸だけで文様を表現するところに特徴があります。実は約4000年前のエジプトが起源とされる、大変歴史の古い技法だといわれています。また「つづれ織り」のなかには、ギザギザにカットした爪で横糸を織りこんでいく「爪掻本つづれ織り」という高度な技術が必要とされる技もあります。
私たち清原織物は、この「つづれ織り」を受け継ぐ滋賀県唯一の織元。創業は明治6年ですが、始祖は日本のつづれ織り発祥の地といわれる京都・御室で、室町時代あたりから始めたともいわれています。時代が変わり、機械織りへと転換していくなかで、私たちはずっと昔ながらの手織りにこだわってきました。作っているのは、結納で使われる「掛袱紗」や、舞台の「緞帳」、「袋名古屋帯」など。さらに近年では手織りができる数少ない織元ということで文化財の修復のお仕事もさせていただいています。
これだけ長く私たちが家業を続けてこられたのは、機械よりも〝人〞へ投資してきたからです。特に祖父は全国各地の農村に「つづれ織り」の先生と織機を送り、主婦の方たちへ技術を教え職人へと育ててきました。今でも出機として家で織ってもらえる職人さんがいるのはありがたいことですね。
「つづれ織り」を後世へ
バトンタッチしていく使命感
微妙な色合いを出すのも職人の技 私は「つづれ織り」の工場を遊び場にして育ちましたが、もともと継ぐつもりは全くありませんでした。身の周りにあったせいか、若い頃は魅力を感じなかったのです。しかし30代後半に「自分の人生を賭けられる仕事がしたい」と思い、歴史ある「つづれ織り」を後世へ伝えていくことが使命ではないかと考えるようになりました。
家業に入ってから1年目は、職人である母から直接指導を受け、「つづれ織り」の技法も身につけました。やってみると織る作業は本当に手間がかかりますが、非常に面白い。幅の大きな緞帳や祭事用の幕などは、1日に5ミリから7ミリほどしか進まないため1年くらいかけて作ります。毎日織っても織っても終わらないこともあり、だんだんのめり込んで夢中になっていくんです。その感覚が楽しく、「つづれ織り」の魅力も改めて感じました。
そして2年目は、外の世界を見るために東京でいろんなお店を見て回り、繊維関係だけでなくさまざまな分野の本を読み漁りました。家業に入る以前は建築関係の仕事をしていましたが、いざ経営者的な目線を持とうとすると、自分の視野や物差しがとても小さいことを痛感したからです。
自然豊かな滋賀で育む
新たなブランド『SOHACHI』
新ブランド「SOHACHI」の商品 3年目の2016年には自社ブランドの『SOHACHI』を立ち上げました。というのも、「つづれ織り」を後世に残していこうと考えた時に、まず一般の方にも知っていただくきっかけが必要だったからです。これまで「つづれ織り」は、神社仏閣や祭りの装飾品、結納式の袱紗や着物の帯など、特別なハレの日を演出してきました。それをより多くの人に知っていただくため、SOHACHI』では日常で使える名刺入れや金封袱紗、懐紙入れ、蝶ネクタイ、シャトルのマグネットバーなどを展開しています。当初は受け入れられるか不安でしたが、展示会で手応えを感じ、名刺入れは2017年度のグッドデザイン賞も受賞しました。また地域とのつながりを深めるため、守山メロンを染めの原料に使った名刺入れなども作っています。
『SOHACHI』で 「つづれ織り」を知った方は、生地がとてもきれいだと褒めてくださいます。それはシルクの糸を使い、縦糸が見えないように織る「つづれ織り」ならではの美しさ。私は自宅から工房まで毎日琵琶湖を眺めながら通勤していますが、色使いについては琵琶湖の風景からインスピレーションを受けたものもたくさんあります。毎日、その瞬間で変わる琵琶湖の色や、滋賀の豊かな自然のなかで美意識や感性が育まれているのではないでしょうか。
今後も「つづれ織り」を継いでいくため、現在は『SOHACHI』のリブランディングや職人育成にも力を入れています。皆さんもここで知った「つづれ織り」のことを誰かに伝えてくださることで、バトンが繋がっていきますので、ぜひご協力いただければ嬉しく思います。
※記事の内容は取材時点での情報となります。あらかじめご了承ください。
(2018年12月取材)