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琵琶湖発 人間探訪

政所茶縁の会 山形 蓮さんを訪ねて

政所茶縁の会 山形 蓮さんを訪ねて
山形 蓮さん
琵琶湖の源流である奥永源寺地域。
ここに、かつて「宇治は茶所、茶は政所」と茶摘み唄にも歌われた銘茶があります。
今では“幻の銘茶”といわれるほど減少してしまったこの政所茶の存続に取り組んでいるのが、「政所茶縁(まんどころちゃえん)の会」の山形 蓮(やまがた れん)さん。
地域の方の想いを受けとめ、未来につなぐ活動の原点を伺ってきました。

政所茶縁(まんどころ ちゃえん)の会

住所:〒527-0204 滋賀県東近江市政所町966
E-mail:mandocorocha.info@gmail.com

山村の美しい景観と
寧な暮らしぶりに惹かれて


地元の方にお借りした茶園
 私はもともと滋賀県立大学で地域文化の勉強をしていました。その当時からフィールドワークでさまざまな地域へ出かけ、大学院在学中は東日本大震災の被災地でのボランティア活動をしていたことも。そこで地域の人たちによる共助の力を目の当たりにし、「地域のつながりが強いところで暮らしてみたい」と感じるようになりました。そんな頃、大学時代の先生に誘っていただいて訪れたのが東近江市の政所町。最初は政所茶のことも全く知りませんでしたが、日本の原風景ともいえる山と川の美しい景観、それを守り続けてきた昔ながらの暮らしぶりに惹かれました。そして80歳近い地元の方が「この茶畑を自分たちの代で絶やしたくない」と懸命に頑張っておられるのを見て、素人ながら「何か力になれたら」と思ったんです。

 そこでまずは地元の方から茶畑を借りて、週末に仲間たちと茶畑の作業を始めることにしました。そうして農作業をしながら地域の人たちと交流するうちに、地域資源としての政所茶の可能性を発見。1年半後には「地域おこし協力隊」として政所茶の存続に取り組むことになりました。その頃仲間たちと立ち上げたのが「政所茶縁の会」です。メインのメンバーは6名で、私以外はみんな地域の外に暮らしており、仕事やライフスタイルもさまざま。でも政所茶が好きという気持ちは一緒で、今も週末に集まって茶畑の管理や政所茶のファンづくりのための活動などを行っています。

在来種で無農薬・化学肥料なし
昔ながらの製法を守る政所茶


茶摘みは一つひとつ手で摘まれます
 政所茶は室町時代から600年以上続く歴史あるお茶です。諸説ありますが、そもそも滋賀県は日本茶発祥の地といわれるほど、お茶との関わりは深いんです。なかでも政所茶は幕府や朝廷にも献上されていた銘茶で、最盛期の明治時代には製茶量が30トンもあったといわれています。しかし戦中戦後の食糧難による芋畑への転換や、高度成長期の生業の変化などによって減少の一途をたどり、現在の生産面積はわずか2.5ヘクタール。これは宇治茶や静岡茶の産地なら1軒の農家が扱う面積よりも小さいくらいで、今や絶滅の危機に瀕しています。

 そんな政所茶の特徴は、産地全体で無農薬栽培されていること。「琵琶湖の源流に住む自分たちが、川下に薬の入った水を流すわけにはいかない」という思いもあり、自然と無農薬で化学肥料を使わないお茶づくりが続けられてきたそうです。しかも現在ではとても希少な在来種で、茶摘みをはじめほとんどが手作業。今では需要に合わせ、収穫を一番茶のみにとどめるなど、茶の木にできるだけ負担をかけず生産しています。このように政所の茶づくりは非効率の極み。だからこそ人間のエゴではない、自然と共生した姿があり、人の心を打つんだと思います。今は消費者のニーズも変わりつつあり、産地が見えるお茶、無農薬のお茶、その土地にしかないお茶を求める人が増えています。効率的で便利すぎる世の中の価値観が一巡し、非効率でも手間ひまかけた政所の茶づくりが改めて見直されているんです。これはお茶という範囲を超え、今の人たちの学びにつながるはずだと、何とか未来へつないでいきたいと思うようになりました。

地域の方たちと協力して
新たな動きの起爆剤に


摘み取られた新茶
 「地域おこし協力隊」として3年活動したのちに、その集大成として「政所茶生産振興会」を発足しました。政所茶は現在70 軒ほどの農家が生産していますが、これまで生産者組織がなく、それぞれが生産と販売を個別に行っていたんです。それでは問題を共有・解決しづらいということで、生産者のなかでも50 代くらいの息子世代の方たちに集まってもらい、一緒に立ち上げました。これが良かったのは、お互いの政所茶への熱い想いを共有できたこと。息子世代の方たちは親の背中を見ながら育ち、「政所茶を守りたい」と思ってこられたけれど、お茶では食べていけないし、自分ではどうしようもないと半ば諦めていたんです。それが生産者組織が立ち上がったことで「みんな同じ気持ちなら何かできるかもしれない」という小さな希望に変わっていきました。さらに販売部門の「茶縁むすび」をスタートさせることで私の居場所もでき、協力隊を退任した後も政所に住み、活動を続けています。

 
 今は「政所茶縁の会」代表、「政所茶生産振興会」理事、「茶縁むすび」代表として、政所茶を生産しながら、いかにこの地域資源を活かすかということを日々考えています。例えば、お茶葉のままでは加工がしづらいためパウダー状にして、滋賀の地元企業とのコラボでスイーツに仕立てたり、産地を知っていただくために茶摘み体験を企画したり。また観光ツアーの事業化も進めていきたいと思っています。まだまだ課題は山積みですが、地域の方々と一緒に、一歩一歩できることをやっていきたいですね。

 滋賀に住まれている皆さんもちょっと目を向け、足を向け、身のまわりにある新しい価値観や昔ながらの生き方にふれてみてください。自然と生きる人たちが身近にいる、恵まれた環境であることに気付いてもらえたらいいなと思います。
(2018年5月取材)

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