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神保真珠商店 杉山知子さんを訪ねて

神保真珠商店 杉山知子さんを訪ねて
杉山知子さん
淡く気品のある輝き、 表情豊かな色味や形…。 古くから海外でも愛されてきた 「びわ湖真珠」の美しさに魅了され、 大津に店舗をオープンされた 神保真珠商店の3代目・杉山知子さん。
知られざる「びわ湖真珠」の歴史と これからの展望について、 お話を伺ってきました。

神保真珠商店

住所:〒520-0043 大津市中央3-4-28 第弐ワークスワンビル 1F
TEL:077-523-1254 FAX:077-523-1045
http://jinbo-pearls.jp

万葉集にも登場する希少価値の高い「びわ湖真珠」

 

 琵琶湖で真珠がとれることを知っている方は少ないんじゃないでしょうか。 真珠といえば海のもので、「琵琶湖で真珠がとれるの?!」とたいてい驚かれます。 しかしその歴史は古く、平安時代の万葉集にも”近江の白玉“と詠まれていますし、 マルコ・ポーロの『東方見聞録』にも記述が残っているようです。 それがなぜ今はあまり知られていないのかというと、昭和初期に「びわ湖真珠」の養殖が始まって以来、 そのほとんどが海外輸出向けで、国内に流通していなかったからです。

 

 海の真珠は有核真珠といい、母貝のなかに貝殻などの真円の核と細胞片を入れて、 その上に真珠層を巻かせています。一方、「びわ湖真珠」は有核のものもありますが、 母貝に細胞片のみを入れて真珠層を巻かせる無核の技法が主流でした。 無核の真珠は有核の真珠のようにきれいな丸形をしていないぶん、 それぞれ形や色に個性があり、ペルシャ湾の天然真珠にとてもよく似ていたといわれています。 そのためかつてはヨーロッパやアメリカなどで高く評価され、 海外バイヤーたちが琵琶湖の養殖業者へこぞって買い付けに訪れていたのです。

生産量は全盛期から激減 後継者不足も課題

 「びわ湖真珠」の養殖が最も盛んだったのは、 昭和40年代後半から50年代にかけてです。 当時の生産量はなんと年間6トン。これは貝を除く、 真珠の粒だけの重さです。養殖の登録業者さんも90軒以上あったといわれており、 滋賀県の重要な産業のひとつでした。 しかし昭和50年代後半から環境の悪化や水質汚染によって母貝が十分に育たない時代が続き、 さらに中国産の安価な淡水真珠が出回ったこともあって、 「びわ湖真珠」は一気に衰退しました。 もともと母貝は池蝶貝(いけちょうがい)という琵琶湖ならではの固有種で、 環境変化の影響を受けやすいデリケートなものなんです。

▲池蝶貝から真珠を取り出すようす

 そんななかでも一部の養殖業者さんが現在の琵琶湖の環境に適した池蝶貝へと品種改良し、 粘り強く養殖業を続けてこられました。 今は登録業者さんが10軒ほど、 実際に真珠を作っておられるのは5軒くらいになっています。 「びわ湖真珠」は母貝を育てるのに3年、そこから真珠を作るのに3年…。 6年という長い年月をかけて必死に取り組んでも、売り物になる真珠はほんの一部だけ。 本当にご苦労の多い大変な仕事なんです。だから後継者がいらっしゃらないところもあります し、今後は後継者をどう育成し、「びわ湖真珠」を守り続けていくかも課題ですね。
 

「びわ湖真珠」を広く知ってもらい滋賀の観光資源のひとつに

 神保真珠商店は、祖父が定年退職後に立ち上げたお店です。 親戚が養殖業をやっていたので、「琵琶湖の真珠を滋賀の方にも知ってもらいたい」と、 店舗を持たずに外商のようなスタイルで販売していました。 当時は官公庁向けの記念品などによく使われていたようです。 そして父にも受け継がれ50年近く続けていたのですが、 私が前職の会社を辞めてから、2014年に実店舗を持つことにしました。 最初は軽い気持ちで始めたんです。でもお客様からいろんなお声をいただいたり、 養殖業者さんと深くお付き合いさせていただいたりするうちに、 「びわ湖真珠を滋賀の方に、日本全国の方に伝えていくことが私たちの使命だ」 と強く思うようになりました。


 現在は養殖業者さんから真珠の玉を買い取り、私と父がそれにデザインを施してアクセサリーに仕立て、 店舗で販売しています。今までは海外に渡った真珠がどんなふうに加工されているかわかりませんでしたが、 「最終商品やお客様の顔が見えるのがうれしい」と養殖業者さんも喜んでくださっています。 また東京や大阪でセミオーダー会を開催したり、 地域資源を活かした提案を行っているブランドとコラボしたり、「びわ湖真珠」の認知度を上げるための活動にも注力。

「びわ湖真珠」は色、形、照り、どれひとつとして同じものはありません。 すべてが一点物なので、実際に見て、触れて、魅力を感じてもらいたい。 「びわ湖真珠」を見るために滋賀県に遊びに来てもらえるように、観光資源のひとつにしていけたらいいですね。 そして滋賀の方には、せっかくこんな美しい真珠が琵琶湖で作られているので、 若いうちから本物の真珠を身につけて楽しんでもらいたいと考えています。 「びわ湖真珠」をこれからも守り続けていくため、琵琶湖や滋賀県をとりまく自然環境も一緒に大切にしていけたらいいなと思っています。 

※記事の内容は取材時点での情報となります。あらかじめご了承ください。
(2017年8月取材)

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