琵琶湖の漁師町で小さい頃から食べ慣れたローカル食
琵琶湖には、ビワマス、ニゴロブナ、ホンモロコ、イサザ、セタシジミなどの固有種がたくさん生息していて、昔から各家庭で食べられてきました。そして、琵琶湖の魚を獲る漁師も昔はたくさんいました。実はこのお店の近くにも菖蒲漁港があり、もともと漁師町だったんです。今は2軒だけになりましたが、以前は50軒ほどあるお家のほとんどが漁師だったと聞いています。
うちの祖父、祖母、父、母もみんな漁師。小さい頃からよく一緒に漁について行ったり、獲ってきた湖魚のうろこを取ったりしていました。今でも覚えているのは、庭が迷路になるくらいの網が干されていたこと。魚を炊く匂いが毎日していたこと。具合が悪い時は「鮒ずし食べたら治る」と言われていたこと。ビワマスのフライがどーんと食卓にのっていたこと…。でも結婚して家を離れると、自分で湖魚の佃煮を炊くこともなくなり、昔ながらの琵琶湖のローカル食が食卓に並ぶことはどんどん減っていきました。
そんな時、勤めていた会社を辞め、また実家の漁や加工業を手伝うようになりました。今から7年ほど前のことですね。大人になって改めて家業に向き合ってみると、今まで当たり前のように食べていた鮒ずしやビワマスのフライがなんて贅沢なものだったんだろうと。琵琶湖で獲れた魚を煮た佃煮も祖母から母に受け継がれてきた〝我が家の味〞で、なんとかこれを残していきたいと思うようになりました。
湖魚に馴染みのない若い方にもまずは興味を持ってもらいたい
そして2016年11月、琵琶湖で獲れた魚の加工品を扱う 「BIWAKO DAUGHTERS(ビワコドーターズ)」をオープン。以前は店舗を持っていなかったので、 地元の方が家に直接鮒ずしなどを買いに来られていたのですが、 もっと広く琵琶湖の魚を知ってもらうために店舗を構えることにしました。
また若い方にも親しんでほしいという思いから、店舗デザインやパッケージデザインに遊び心を取り入れ、 自社サイトやSNSでの情報発信にも力を入れています。 特にパッケージについては湖魚を初めて食べる方にも気軽に手に取ってもらえるように、 ポケット型の小さな真空パックや瓶詰めも用意し、大・中・小と好きな量を選べるよう工夫しました。
お店のイメージは、外国の漁港にある魚屋さん。船のかたちをした商品棚、 照明には遠洋漁業の船にも使われている漁灯、屋根には風見鶏ならぬ風見ナマズなどを取り付けて、 魚屋さんの雰囲気を出しています。実はこの店舗、以前は鮒ずしを漬ける小屋でした。 鮒ずしの桶がいっぱい並んで、あの独特の香りが漂っていたんです。 今はもう見る影もないくらいに生まれ変わりましたが、そんな歴史も刻まれているんですよ。
商品は、父が長年漬けている「鮒ずし」、コアユを伝統の調味料で煮た「あゆ煮」、 湖産のスジエビと大豆を和えて煮た「海老豆」、琵琶湖の固有種を使った「もろこ煮」 など、滋賀で代々食べられてきた湖魚の加工品ばかり。 また近江八幡市のパン屋さんに協力していただいて、鮒ずしとチーズをはさんだ「鮒ずしサンド」 や、ブラックバスのフライとオリジナルソースを合わせた「バスバーガー」、 スジエビを練り込んだパン生地を使った「えびパン」なども展開しています。
滋賀の食文化を発信し新たな魅力を楽しめるお店に
ありがたいことに、今ではもともと知ってくださっていた地元の方だけでなく、 SNSを見て県外からわざわざ足を運んでくださる方、 サイクリングで通りがかりに訪れてくださる方など、 お客様の裾野が広がってきたと感じています。 「初めて湖魚を食べたけど美味しい!」 「おばあちゃんがいなくなって食べる機会がなくなったけど、またこうして味わえて嬉しい」 といったお声を聞くと、やって良かったと思いますね。
今後は、祖母や母の味を守りつつ、 私らしい表現も加えていきたいと考えています。例えば、 琵琶湖の食材を使ったプリンやジェラート、 酒粕のレアチーズケーキといったデザートシリーズも新しい挑戦。 他にも節分の日にはうなぎの恵方巻きを用意するなど、 季節ごとに何かいつもと違う商品を提案していけたらいいなと思っています。そして一番の願いは、 琵琶湖の美味しい魚を知ってもらいたい、一度は食べてもらいたい。 「BIWAKO DAUGHTERS」が琵琶湖の魚と出会うひとつのきっかけになれれば、とても幸せなことだと思います。
※記事の内容は取材時点での情報となります。あらかじめご了承ください。
(2018年2月取材)