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琵琶湖発人間探訪

くせ さなえさん
くせ さなえさん
絵本作家
くせ さなえさんを訪ねて

 今回は、近江八幡市で生まれ育った絵本作家のくせさなえさんに、絵本を描くうえで大切にされていること、地元・滋賀県への思いなどをお聞きしました。

くせ さなえ
1977年滋賀県生まれ。
京都精華大学美術学部卒業。
2006年、第28回講談社絵本新人賞佳作受賞。
2010年、第32回講談社絵本新人賞受賞。
受賞作『ぼくとおおはしくん』で絵本作家デビュー。

憧れの絵本作家への道

 「絵本作家ってどうやったらなれるの?」
―そんな質問をよく受けます。私の場合は子どもの頃から絵を描くのが大好きで、 小学校では「物語の世界を絵に描く」という図工の授業が楽しくてしかたありませんでした。 それがきっかけで卒業文集には「絵本作家になりたい」と書いたほどです。
 そして実際に絵本作家の夢をカタチにしようと動き出したのは大学受験の時。 京都精華大学の漫画学科に絵本コースがあったので、入学するためにデッサンを勉強しました。 その後、無事に入学して絵を学ぶものの、絵本作家への道は厳しく、卒業後はいったんテキスタイルデザインの会社に就職しました。
 ここでは絵の具で描いた図柄をパソコンに取り込んでテキスタイルデザインをつくる仕事をしていました。絵を描く技術が磨かれて楽しかったので、 一時はこのまま仕事を続けようかと迷ったこともありました。でもやっぱり夢を諦めきれず、就職して4年目の頃から京都の絵本塾に通い始めました。 そこでブックデザイナーの祖父江慎さんに出会い、小説の挿絵の仕事をさせてもらったのがプロへの最初の一歩になりました。

絵本の題材は身近なものばかり

 絵本塾に通いながら講談社の絵本新人賞に応募し、3度目に出した『ぼくとおおはしくん』が新人賞を受賞。 これは近江八幡の風景を舞台にした絵本で、私の子どもの頃の楽しかった思い出がたくさん詰まっています。 絵本の題材はこのように、いつも自分の身近なものがほとんどです。
 例えば『ゆびたこ』は指しゃぶりがやめられなかった子ども時代の自分を思い出して描きました。 手話絵本『しゅわしゅわ村のどうぶつたち』や『しゅわしゅわ村のおいしいものなーに?』は、 甥っ子が聴覚障害のため、手話ができない子にも手話に親しみを持ってもらいたいと思って企画したものです。
 ありきたりかもしれませんが、私が絵本作家として大切にしているのは、 子どもたちに楽しんでもらうこと。 『ゆびたこ』を読んだ子どもが指しゃぶりをやめられたと、お母さんたちから感謝の手紙をいただくこともあります。 でもそれは後からついてきた結果で、最初から"しつけ"を目的として描いていたら、きっと子どもたちには受け入れてもらえてなかったでしょう。 手話絵本も同じで、決して勉強本にはしたくないと思っています。



滋賀の自然の美しさを絵本を通じて伝えたい
▲2014年1月に長男を出産され、絵本の制作と育児を両立されています

 もうひとつ大切にしているのは、「絵を描いている時はとにかく夢中で楽しみ、絵の良し悪しを頭で考えないこと」。 絵本塾で祖父江さんから言われ、心に残っている言葉です。私はもともと頭で考えず描くタイプでしたが、 それでいいのか悩んでいた時に「いいんだ!」と背中を押してもらえました。
 今でも時々、頭で考えてしまう時は絵が硬くなったり、付け加えて描いたようになったりします。 だから絵本の世界にとことん入り込む。子どもを出産してからは、子どもが寝静まった後や家族に子守をしてもらっている時に集中して描いています。
 現在はダジャレをテーマにした絵本を制作中。2年ほど前から取りかかり、ようやく出版が近づいてきました。昔は絵を描くのが好きで楽しくて描いていましたが、 今はそれが本になって世に出る喜びもありますね。
 今後目指しているのは、滋賀県の自然の豊かさを伝えられるような絵本を描くこと。展覧会などで東京や大阪に行くと、滋賀に戻ってきた時に自然が多くてホッとします。 子どもと一緒にベビーカーで近江八幡の川辺を散歩しながら、「さあ次はどんな絵本にしようかな」と次の構想を練っているところです。


(2014年12月取材)
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