青山 裕次さん
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鍛冶職人 青山 裕次さんを訪ねて
今回は高島市マキノ町に工房を構え、鍛冶職人として活躍すると共に、体験教室を通じて鍛冶の魅力を伝える活動をされている青山裕次さんにお話を伺いました。
火造鍛造(HAUS YBBSITZ IN JAPAN)
住所 |
:滋賀県高島市マキノ町西浜419 |
電話 |
:090-5209-0201 |
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鍛冶との出会い
私は大学を卒業後に放送局へ入社し、京都・大阪・東京で報道番組のディレクターとして働いていました。
しかし、仕事に忙殺される毎日を過ごし、「このまま働き続けてもスペシャリストにはなれない。
好きなことを一生続けていく職人のような生き方をしたい」と強く思うようになりました。
そして15年間務めた放送局を退社し、東京の金属造形の専門学校で学ぶことを決めました。
そこで鍛冶について学ぶ機会があり、その面白さに惹かれました。また、小学生の頃に音楽で習った「村の鍛冶屋」という歌を思い出し、
鍛冶職人に憧れを抱くと共に、「自分にはこれしかない」と強く思うようになりました。
鉄鉱の町、マキノで工房をオープン
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▲鉄が熱いうちに美しい曲線をつくります |
専門学校を卒業後は、講師の紹介で埼玉県の金属加工の仕事に就きました。そこで3年半の勤務の後に独立し、2005年の春にマキノに工房を構えました。
マキノを選んだのは、福井県出身である私には小さい頃から馴染みが深かったからです。工房を構えた後に、マキノが鉄に歴史の深い町であることを知り、
驚きました。マキノはかつて鉄鉱石が採れ、鉄が貴重であった時代から製鉄所があったと聞いています。そのことを示す遺跡などが残っています。
現在、工房では「門扉」や「フェンス」「手すり」「ドアノブ」などの建築金物や、「傘立て」や「キャンドルスタンド」、
「オブジェ」などのインテリア用品を制作しています。建築金物はご注文をいただいて作りますが、インテリア用品は自分自身でデザインしたものを作り、
画廊や喫茶店などに置いていただき、気に入った方に購入いただいています。
鍛冶の腕を磨くため、本場ヨーロッパへ
独立した後も、私はさらに鍛冶の腕を磨くために、鍛冶の本場であるオーストリアのイブジッツ市に渡り、鍛冶の世界大会へ参加しました。
イブジッツ市は古くから鍛冶で栄えてきた歴史を持ち、ヨーロッパ中の鍛冶職人が憧れる場所でもあります。
世界大会に参加して感じたのは、技術面ではまだまだヨーロッパの職人には及ばないということです。
日本でも日本刀などの鍛冶技術は高く評価されています。しかし建築金物の分野では大きな差を感じました。
ヨーロッパでは、チームを組んで作業をするスタイルが定着しており、結果として質の高いものができあがります。
一人で作業をする日本の職人が同じクオリティを目指すことはとても難しいと痛切に感じました。
それでも、2006年にイブジッツ市にオープンした鍛冶のミュージアムには、世界の鍛冶職人4人のうちの一人として、
私のことを紹介していただきました。自分の腕が本場に認められたと自信を持つことができました。
鍛冶界のローマ法王、ハーバーマン氏と出会い
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▲アルフレッド・ハーバーマン氏が来日された記念のサイン |
イブジッツ市に滞在している間に、鍛冶界のローマ法王と呼ばれるアルフレッド・ハーバーマン氏と知り合うことができました。
2006年には京都造形芸術大学で講義をするためにイブジッツ市長と共に来日され、その際に私の工房を訪れてくださいました。
私の工房では一緒にモニュメントを制作し、たくさんの刺激を受けたと共に、今後の自分にとって大きな糧となりました。
ハーバーマン氏はマキノを訪れた際、「ここには鉄の神様がいる」という言葉を残されました。
マキノの歴史を知るはずのない彼からのこの言葉に、「自分は鉄の神様に導かれてマキノに来たのだ」と感じました。
また、イブジッツ市長には私の工房に「HAUS YBBSITZ IN JAPAN」と名付けていただきました。
「日本のイブジッツがここにある」という意味です。鍛冶職人にとって憧れの地である「イブジッツ」の名前をいただくことができ、
とても名誉あることだと感じています。
体験教室を通じて、鉄の魅力を伝える
正直なところ、私が生きている間に鍛冶屋の需要が大きく拡大することはないと思います。代々、鍛冶を継いできた工房でも辞めていく職人が後を絶ちません。
しかし、これはあまりにもったいないことだと感じています。
私は鉄の魅力を伝えるために、鍛冶の体験教室を開催しています。マキノの工房ではもちろん、地域の施設で子どもから大人まで参加できるイベントも開催しています。
また、地域の子どもたちと共同で作品を制作をしたこともあります。2006年には小学生50人と高島市安曇川町に建設された交流施設「たいさんじ風花の丘」の施設の「手すり」を、
3日間かけて作りました。子どもたちの感性が生かされ、愛着と温かみのある「手すり」ができあがりました。大量生産とは違う、手作りの良さを知ってもらうことができたと思います。
「鉄は熱いうちに打て」と言いますが、実際にどういうことなのか、鉄の性質や鍛冶の工程を知ってもらうことが、鉄の魅力を知るきっかけになると思います。
逆に知らなければ、鉄が放っている魅力を見過ごしてしまいます。少しでも多くの方にその魅力を伝え、鍛冶が次の世代へ伝承されていくことを望んでいます。
また、マキノ町は製鉄の歴史がある「鉄の町」です。いつかヨーロッパのように、国内外から多くの鍛冶職人が集い、技術交流が生まれるような町になるように、
自分がその担い手になることを目標としています。
(2013年5月取材)