和ろうそくと洋ろうそくの違い、一言で言えばそれは原料にあります。和ろうそくの原料は漆や櫨の実から採取される植物性の蝋です。これに対して洋ろうそくは石油を精製して作るパラフィンを使用します。現在、市場に流通しているろうそくのほとんどは原料が安価な洋ろうそくです。私たちが和ろうそく造りに使用する櫨は生産効率が悪いことから希少で高価な原料とされ、その原料価格は洋ろうそくの15〜20倍にもなります。 それでも櫨を使い続ける理由は、他の安価な素材では納得いくものができず、理想的なろうそくを造るには櫨が一番適していると確信したからです。櫨のろうそくが灯 す光には、風に強く、長時間美しくゆらめき続けるという他にはない魅力があるのです。以前にあるお寺の関係者の方から、和ろうそくの力強く、美しく燃える様子に「今までに無い美しさだ」とお褒めの言葉をいただいたこともあります。 また、今日ではエコへの関心が高まっていることもあり、全国各地から和ろうそく造りの実演や和ろうそくの魅力についての講演依頼のお話をいただきます。なぜなら、和ろうそくは天然の原料を使用しているため油煙が少なく、洋ろうそくと比べて環境負荷が軽減されると考えられているからです。 全国の観光地などで和ろうそく造りの実演をする際には、一緒に造っていく過程を楽しみながら、お客様に和ろうそくの魅力を伝えています。こうした活動を通じて少しでも多くの方に滋賀県の伝統工芸品である和ろうそくの素晴らしさを知っていただきたいと思います。
和ろうそくの製造工程は非常に多くあります。中でも重要なのが「手掛け」と呼ばれる灯芯に蝋をかけていく工程です。「手掛け」の際には原料や外気の状態、蝋の温度を見極めることがポイントとなります。さらに下掛け、荒掛け、上掛けの3工程を経てようやく完成します。一人前の技術を会得するまでに10年はかかり、気の遠くなるような道程です。 明治時代、当時の主要産業だった和ろうそくの店を、祖父がこの今津の地に開きました。私は子供の頃から、長男は家を継ぐものだと言われていたので当たり前の様に家業を継ぎ、和ろうそく職人となる道を選びました。職人は「見習い」という通り、「見て」「習い」技術を自分のものにしていくものです。祖父からの教えも「これで、ええ」「まだ、あかん」という程度でしたし、それ以上のものは自分で感じ取り「自分だけのものを造る」という強い意志持って仕事に取り組んできました。 昭和59年に和ろうそくが滋賀県の伝統的工芸品に指定され、昭和62年には祖父に続き伝統的工芸品産業振興協会から奨励賞を受賞することができました。しかし大量生産・大量消費の時代の中で、時間とコストのかかる和ろうそく造りを理解してもらえないこともあり、当時はこのまま家業を続ける自信がありませんでした。しかし私はそのような厳しい環境の中で生まれたものにこそ、面白さ、美しさがあり、時代を超えて価値のあるものができると思います。「本物の灯りを守りたい」「他とは違 う独自のものを造りたい」という気持ちを大切にして何とか自分の道を切り開き、今に至ります。そして現在は私の息子が跡を継ごうと懸命に仕事に取り組んでいます。
私は伝統工芸を継承しなければならないというプレッシャーを感じたことはありません。父の背中を見て自然に跡を継ぎたいと思うようになりました。父が継承した当初に感じていたように、和ろうそく職人を続けていくことに先行きの不安はありましたが、迷いはありませんでした。 「よい職人であると同時に、よいビジネスマンであれ。」以前、父にこんな言葉をかけられました。「職人として技術を磨くことはもちろん、生活が成り立たなければ 職人を続けていくことはできない。だからこそ世間の動向に敏感なビジネスマンであれ」という意味合いです。それを受けて今後は和ろうそくの「本物の灯り」という本質は変えずに、より皆さんに興味を持っていただけるように、間口を広げていきたいと思っています。例えばカラーバリエーションを増やしたり、絵柄を入れるなど、新 たな製品造りに取り組んでいます。また、若い世代の方にも興味を持ってもらえるよう、ホームページやブログを通して和ろうそくの魅力を伝え、さらに様々なイベントにも積極的に参加しています。それがこの先どんな形で実を結ぶかはわかりませんが、新たな試みを続け、大與が進むべき方向を模索していきたいと思います。