竹根鞭細工とは、その名の通り竹の根の部分を使った工芸品であり、傘の柄やハンドバッグのもち手、ナイフ・フォークの柄、その他あらゆる家庭用品の部品として使用されています。また、ステッキのようにそれ自体が製品として利用されるものもあります。 日本国内は勿論ですが、遠くヨーロッパ諸国、アメリカ等といった海外で特に愛用されてきました。中でも、1904年のセントルイス世界万国博覧会にも出品された竹根鞭ステッキはその時代に人気を博し、イギリス映画「モダンタイムス」で有名なチャールズ・チャップリンが愛用するなど、英国紳士の日用品として広く普及していました。
竹根鞭細工の一番の魅力は自然を活かした独自の美しさにあります。一本の竹根であってもその部位によっては太さも節の間隔もまちまちで、同じ物は二つとありません。そして、それぞれ異なる竹の根を人の手により加工していくので、同じ製品を作ったとしても全く一緒のものは出来上がりません。それぞれが個性ある製品へと仕上がることに魅力があると考えています。 実は、過去に機械を導入して生産効率を上げることを検討した時期もありました。しかし、「竹根はその強度から機械化に向いていない。それに、機械化すると折れたりはおろか、折角の節が潰れ、平らになってしまい、自然素材の本来の魅力が損なわれてしまう。」という意見があり、自然物を使った工芸品の魅力について再認識させられたことがありました。以来、自然の良さを大切にすると同時にありがたみを感じながら製造するようになりました。機械による効率化を求めるのではなく、資源を有効利用していくことに考えを転換し、製品加工時に余った切れ端などからも製品を作るようにしました。例えば、丈夫で短い切れ端ならばボタンへと加工し、太くて長い切れ端ならばメニュー立てのスタンドにするなど、その特徴に応じて様々な形で再利用しています。
竹根鞭細工の歴史は古く、平安時代にさかのぼるといわれています。当時の将軍である源頼義公が戦に向かう際に草津を訪れ休息されました。その時に愛用されていた鞭を地面に突き刺し武運を祈願して出陣されました。その結果、頼義公は大勝を得ることができ、草津に凱旋された際に突き刺した鞭を奉納したそうです。それ以来、この伝説にあやかり、この地を通る武士たちが武運を高める目的で乗馬鞭を求めたことから、草津で竹根鞭が作られるようになりました。 江戸時代に入り、草津が東海道五十三次の宿場として賑わっていた時代も、草津の宿を通る武家衆が竹根鞭を求め、この地の特産品として名声を広めていきました。明治維新以降は販路が海外にまで広がり、自然物としての独特の風合いは欧米先進諸国の嗜好に適し、輸出商品として普及するようになりました。 しかし、近年では同様の製品が中国などにより安価で輸出されるようになったこともあり、日本の竹根鞭細工の需要はすっかり落ち込んでしまいました。
現在、私は一人で竹根鞭細工の製造を行っており、他に竹根鞭細工を稼業としている方は居られません。今後も私は体の動く限り時代に合った竹根鞭細工を考え、作り続けたいと考えています。そして同時に、滋賀県の伝統工芸として認められているこの文化を継いでくれる人がいるならば、竹根鞭という自然を活かした独自の美しさを余すことなく伝えていきたいと考えています。 また、草津に竹根鞭細工という伝統工芸があるという事を広く伝えていきたいとも考えています。そのために普段の生活の中で多くの人の目につくように、竹根鞭細工で作成した色紙かけや標語立てを草津市内のお寺や学校、職場などで飾っていただき、竹根鞭細工の素晴らしさを知って欲しいと考えています。