守山市下之郷町には、全国で3番目の大きさを持つ弥生時代中期の多重環濠集落跡『下之郷遺跡』があります。この遺跡は1980年に下水道工事に伴う調査で発見されたもので、区画溝、建物、井戸の跡に加え、土器、石器、木器などの生活品、木製の楯、銅剣などの武器などが出土しました。また、その中には炭化していない状態 で出土した稲籾もあり、伝来ルートや品種など、当時の稲作の様子を知る上で貴重な資料となっています。 そのような環境の中、『遺跡をまちづくりに生かそう』ということで守山市の教育委員会から「遺跡地域の田んぼで、地元の吉身小学校の生徒と一緒に古代米の特性を受け継ぐ赤米を栽培しませんか」と初代じいちゃんズの代表に依頼がありました。それがきっかけとなって初代のじいちゃんズは、地域の50歳代から70歳代の自営農業者と一般企業を定年退職した方々を中心に、8名のメンバーで結成されました。 その後、代表が何度か入れ替わり、平成14年頃から私が4代目の代表をすることになりました。私は地域を活性化していきたいという思いからさらに地域の方々に声をかけ、現在では20名程度にまでメンバーを増やしました。そして、メンバーの増員にともなってじいちゃんズの活動の幅も拡がり、今では学校の先生方をはじめ行政の方まで広く交流機会を持つようになりました。
小学生には機械を使った現代の米作りの方法を教えるのではなく、昔ながらの道具や手法を使って米作りを指導しています。 そのため、田植えや草取り、稲刈り、脱穀から精米まで全て手作業で行っています。また使用する道具も、苗を持ち歩くカゴや植える稲の位置決めに使う間竿(かんざお)、足踏み脱穀機、米の選別に使う唐箕(とうみ)など、すべて昔ながらのものを使用しています。 そして、赤米の収穫後には子供たちと収穫祭を行い、収穫した赤米を使った団子や昔ながらの料理を小学生たちにふるまっています。
現在は幼稚園や保育園にも出向き、園児たちに赤米の作り方や地域の歴史をわかりやすく教えています。そして、赤米で作ったポン菓子をプレゼントするなど、昔のお菓子にも触れる機会を作っています。 また、週に3回は地域の小学校の通学路で立ち番をしています。通学路に立つ際は、じいちゃんズのトレードマークである古代米のイラストがプリントされた赤いはっぴを着て、子供たちの登下校を見守っています。はじめの頃は赤いはっぴが恥ずかしく、着るのに少し抵抗がありました。しかし、今ではこのはっぴを見て挨拶してくれる子供が増え、嬉しく思っています。また、吉身小学校の学生が中学生、高校生になっても挨拶をしてくれることもあり、世代を越えた交流の幅が広がっていくことに喜びを感じています。実はユニークな「じいちゃんズ」というグループ名も、吉身小学校の生徒が命名してくれたものです。
現在は必要なものをすぐにお店で手に入れることができ、一から自分でものを作るという機会が少ないと思います。そのため、最近は道具一つひとつの素材や仕組みを知らない子供が多いように思います。赤米づくりで使用する道具はすべて手作りのものばかりで、その道具一つひとつには昔の人達の創意工夫がなされています。米作りの際にでる藁(わら)は、手を加えることで草履や帽子、縄など様々なものになります。子供たちには米作りを通して、利用する道具の素材や仕組みを理解してもらい、工夫次第で「修理できる」ということ、そして「いつまでも使い続けるということの大切さ」を知ってもらいたいと思います。そして、生活の中で必要なものを「自給自足することの大切さ」を伝えていきたいと考えています。 また、仲間と協力して米を作り、みんなで楽しく食べることの喜びをしっかりと感じてもらいたいと思います。
じいちゃんズでの活動は、私たちメンバーにとっても元気の源になっています。活動の本拠地であるプレハブには、活動の日以外でもメンバーが集まり、地域の交流の場となっています。また、年に2回ほど行政の方や学校の先生が一堂に集まり、じいちゃんズの活動報告をはじめ、今後の地域の活性化や子供の教育について議論をしています。今後も、活動を通して地域の方々との交流をさらに深め、地域の活性化や子供の教育に貢献していきたいと思います。