AYAHA GROUP 企業生活を通じて、社会とともに歩む。
Google
企業メッセージ綾羽株式会社グループ会社環境・社会貢献活動採用情報お問い合わせサイトマップホーム
企業メッセージ 「一人ひとりの生活感覚を大切にした活動で、社会とともに歩む」

琵琶湖発人間探訪目次へ
ヨシ職人 竹田 耕介さんを訪ねて
近江のヨシは使えば使う程、色合いに深みを増し、趣を保ち風情が出てきます。しかし、琵琶湖の水質問題で良質のヨシが採れなくなってきています。「一人ひとりが水環境を見つめなおしてもらえるよう働きかけていきたい」とおっしゃるヨシ職人の竹田さんにお話を伺いました。
竹田 耕介(たけだ こうすけ)
1925年滋賀県生まれ、76歳。終戦後、家業を継いでヨシの商いの道に入る。40歳代でヨシ戸の職人に転向し現在に至る。

近江のヨシの歴史について、またヨシの魅力についてお聞かせ下さい。
私は、約130年つづくこの「葭屋」(よしや)の3代目で、21歳で店を継ぎました。昔は店からヨシを卸すだけだったのですが、だんだん職人も少なくなり、自分の手で編むようになったのです。

ヨシの歴史は弥生時代に始まり、近江のヨシが使われだしたのは平安朝時代からになります。ヨシそのものの「美」とは、人が見て綺麗だなぁと思われることが一番肝心です。室内装飾など人から見る目に近い場所に使用するヨシは、「美」の中でも特に上質が求められます。ですから多くのヨシの中から一本一本品質をチェックし、美しいと感じるヨシを選び抜くのです。

1月の厳寒時、この西の湖のヨシは3mにもなり、鎌で丁寧に刈り込みます。その刈り取ったヨシを、皮のないあめ色の部分と皮をかぶっている白身の部分に深みをつけるため倉庫で寝かします。それから、1本ずつひねるようにして皮をはぎ、太さを揃えて、1本ずつ機械に差し込んで糸でつなぎ、夏を涼しく演出するすだれ、家の戸、ヨシズなどに作り上げるのです。こういったものは主に、大阪や京都、金沢に出荷するのですが、そのヨシの荷が出るときはやはり自分の娘を嫁に出すような気持ちになります。

この近江のヨシの特徴は、あめ色の部分と白身の部分との色合いにあり、何十年経ってもその色合いが変わることはなく、より深みを増し、趣きを保ち続けるのです。昔は、京都の町衆が屋敷の窓から祇園祭を見物する時、家の戸やすだれが近江のヨシじゃないと格好が付かないくらい、ヨシは生活の中にとけ込んでいたのですよ。
過去にヨシが減少したことを聞いたことがあるのですが。
ヨシは琵琶湖と切っても切れない間柄で、全て水辺に生息します。もともとヨシは水を浄化する作用があり、水質でヨシの状態も変わってしまうのです。

昔は水の綺麗な状態が何百年も続いていたので、ヨシも良品なものが大量に採れていました。しかし戦後、食料不足になり米の増産のため、そして道路建設などの開発のため、ヨシ生育地が埋め立てられ、最盛期には約260ヘクタールもあったヨシ生育地が消えてしまったのです。そして更に、農薬使用、家庭排水、工場排水などで水はどんどん濁り、汚れていったのです。

ヨシは浄化作用によりその汚水を吸い取ってしまい、ヨシの茎には美しさが消え、黒いシミがポツポツと出るようになりました。ひどい時にはほとんど製品にならない時もありましたね。
現在ではヨシも見直され、保護育成に力が入れられ、ヨシを残していこうという取り組みがなされています。
長年ヨシに触れてこられて、今と昔では何か変化を感じておられますか。
実は、私はヨシと話が出来るのです。ヨシ群の中に入ると、風に揺れて体に触れているように見えるのですが、それは私に話しかけているんですよ。

葉に触れて声をかけたりすると「おじさん、相変わらず水が汚いからええ顔になられへん。綺麗に生まれたいんだけどもこの汚い水はどうにかならないの?」と、私に言うてくるんですよ。「もうしばらく待っててな、必ずこの西の湖に綺麗な水が戻るようにするから。」と言って、よく茎をさすりいたわってあげてます。なんとかしてあげたいとは思っているんですが、そうたやすくはないですね。

ヨシ群落は、水質浄化作用や魚、鳥類などの繁殖地としての役割も果たしています。これからももっと皆に呼びかけ現状をわかってもらい、一人一人が水環境を見つめなおしてもらえるよう働きかけていきたいと思っています。よき環境づくりに向けて、今ヨシが何を望んでいるのかを理解し、手をさしのべてやることが大切だと思います。
ヨシと琵琶湖の関係がよくわかりました。これからヨシとの触れ合いを通して人々に伝えていきたいことはどのようなことでしょうか。
このヨシ(ヨシ細工)について小学校で子供達に話をしに行ったことがあります。その時に感想文をいただいたのですが、「おじさんの話を聞いて将来なりたいものが変わったよ。自然とふれあうことの出来る仕事に就きたいなぁ。」と、子供達が思ってくれたのです。ヨシの話をしたことで、自然について少しでも興味を持ってもらえたこと、すごく嬉しかったですね。また機会があれば話していきたいと思っています。

これから先頭に立って生きていかなければならない子供達に、自然と接した体験談を話すことで、自然や水環境について見つめ直してもらい、環境づくりにプラスになればと思っています。人間が汚した水中の窒素やリンを、ヨシは懸命に吸い取って綺麗にしようとしているんです。私たち人間がこのまま放っておいたら絶対にいけないと思います。
これからのヨシに対する思いや願いなどをお聞かせ下さい。
ヨシを保護するためには、もちろん水を第一に考え、綺麗にしていかなければならないということを呼びかけていかなければなりません。しかし昔ほど良質のヨシが少なくなってしまった現在では、今そのヨシをいかにうまく活用していくかが、大事だと思っています。今後もとにかく地元のヨシにこだわり続けていきたいですね。

他府県産や中国産のヨシもありますが、近江の美を喜んでいただけるのは琵琶湖のヨシをおいてほかにないと思っています。現に、京都や大阪からは、安いものは他にもあるのに、わざわざ近江のヨシを求めてこられます。これからも私が生きている証として、先祖から受け継いだヨシ群落を守り抜いていこうと思います。そしていつか昔のように綺麗な水に戻り、「おじさん、いい顔になったでしょ」とヨシが喜んで話しかけてくれることを願いたいですね。
(2001年5月取材)
ページのトップへ
琵琶湖発人間探訪目次へ
プライバシー・ポリシー | ご利用条件
Copyright(C) 2003 AYAHA Corporation. All Rights Reserved.